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東京地方裁判所 昭和34年(行)20号 判決 1959年10月03日

原告 藤原毅

右訴訟代理人弁護士 藤原繁夫

被告 三鷹市教育委員会

右代表者三鷹市教育委員長 吉野由岐郎

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実および理由

原告は、「(一)、原告が三鷹市教育委員会技師補四等級一二号給の地方公務員であることを確認する。(二)、被告は、原告が三鷹市教育委員会事務局に勤務するため登庁することを妨げてはならない。(三)、被告は、原告に対し、金二十三万二千百九十一円を支払うべし。(四)訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。その請求原因の要旨は、次のとおりである。

原告は、昭和三二年一月一日附で三鷹市教育委員会技師補に採用され、地方公務員として同委員会の事務局に勤務し、昭和三三年四月一日附で四等級一二号給の給与を受けるに至つた者であるが、昭和三三年七月三一日午後二時頃、同委員会石田管理課長から、突然、「明日より出勤しないでよろしい。」と通告を受けた。そうして被告は、翌昭和三三年八月一日から、原告が右のような地方公務員たる身分を有することを争うに至り、同月分からの原告に対する給料ならびに期末手当の支払を拒んでいる。また前記石田管理課長が、原告に前述のような通告をし、あるいは被告がその頃庁内に文書を回覧して、原告があたかも退職したかのように言いふらしたため、原告は、同日以降、被告の事務局へ登庁することが事実上できない状態となつている。

原告は地方公務員であり、その任免は辞令の交付によつて明らかにされなければならないはずであるのに、被告からは免職辞令の交付を受けておらず免職された覚えは全くないのであるから、現在まで引続き三鷹市教育委員会技師補四等級一二号給の地方公務員たる身分を有するものといわなければならない。ところが被告はこれを争うので、原告は被告に対し、原告の右地方公務員たる身分の確認を求めると共に、原告が被告の事務局に勤務するため登庁することを妨げないようにし、かつ昭和三三年八月分から本件準備手続終結前である昭和三四年七月分までの一ヶ月金一万四千八百二十円の割合による給料合計金十七万七千八百四十円、昭和三三年一二月分の期末手当金三万三千三百四十五円および昭和三四年六月分の期末手当金二万一千六円の合計金五万四千三百五十一円、以上総合計金二十三万二千百九十一円の支払を求める。

原告は、本訴請求原因として、右のように主張している。

しかしながら、右請求自体から明らかなように、本件訴は、いわゆる公法上の権利関係に関する訴訟であるところ、被告は、地方公共団体である三鷹市に設置された、同市が処理する教育に関する事務等を管理し執行する行政機関に過ぎないものであるが、行政機関は、行政事件訴訟特例法第三条の規定によつていわゆる抗告訴訟の被告となり得る場合、その他法律の規定によつて特に訴訟当事者となり得ることを認められている場合のほかは、被告適格をもたないものといわなければならない。なおまたいわゆる行政処分無効確認訴訟の被告につき行政事件訴訟特例法第三条の規定を類推適用すべきものとする説もないわけではないが、本件訴は、行政機関に被告適格を認める叙上いずれの場合にもあたらない。したがつて本件訴は、原告と公法上の法律関係において相対する一方の当事者である三鷹市を相手方として提起すべかりしものであつたといわなければならない。もつともいわゆる公法上の権利関係に関する訴訟において、一般に被告の変更が許されるべきであるとの解釈にしたがうとしても、原告は、本件準備手続期日において、本件訴の被告を三鷹市教育委員会以外の者に変更する意思がない旨釈明したことが当裁判所に職務上明らかである。してみると、三鷹市教育委員会を被告としておこした本件訴は、不適法であつて、その欠缺はとうてい補正することができないから、民事訴訟法第二〇二条にもとずきこれを却下することにし、訴訟費用の負担につき同法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 桑原正憲 裁判官 大塚正夫 石田穣一)

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